お知らせ
アクティブ・ラーニング型小論文講座
12月19日~21日の3日間、冬期講習「慶応小論文」が開講され、高校2年生16名が受講しました。この講座は、通年授業「選択国語表現」(高校3年・担当及川)の入門編として位置付けられます。
授業では、単に問題演習をして解答解説をするのではなく、受講者に主体的な「思考」を促すべく、さまざまな工夫をしました。グループワークやプレゼンテーション、相互評価などを取り入れ、「アクティブ・ラーニング型」の授業を展開するとともに、きめ細かい指導が行えるよう、及川教諭と稲葉教諭のチームティーチングで実施しました。
初日は、大会議室でドキュメンタリー番組を視聴しました。教材は「“FUKUSHIMA”後の世界」前・後編(NHK-BS)という海外で制作された番組で、両編合わせて100分程度のものです。米国ニューヨーク州のインディアンポイント原発の存廃を巡り、原子力業界、市民運動、原子力規制委員会の3者の攻防がスリリングに描かれています。受講者は、登場人物や団体の関係や主張を、図を用いるなどして適宜整理しながら番組を視聴しました。
初日の宿題は、原発側、市民運動側それぞれの主張を、200字程度でまとめてくることでした。
2日目からは、教室で授業を行いました。まず、全体を2~3名の5つのグループに分け、前日の宿題をもとにディスカッションとプレゼンテーションを実施します。グループごとに、原発側、市民運動側の2つの立場から、それぞれ相手方への説得スピーチを行うというものです。原発側からは経済性を、市民運動側からは事故があった場合の影響の大きさを、それぞれ基軸として立論しているグループが多く見受けられました。中には、2人が各々異なる立場の役を演じ、質疑応答や意見の応酬を交互に行う、ディベート形式のグループもありました。
2日目の後半は、いよいよ慶応大学の過去問に取り組みます。素材は2013年度経済学部の入試問題で、大飯原発再稼働について日経新聞と朝日新聞の社説を対比したものです。最初に、稲葉教諭が両社説を音読します。受講者にはテキストが配布されていますが、聞き取りを主体に、各社説の内容を、図を用いるなどして適宜整理します。中には、フローチャート、マインドマップなどを活用して情報を整理している生徒もいました。聞き取りとメモにもとづき、設問Aを200字程度で解答します。その後、各グループで解答を共有し、互選によりグループの代表作を1つ選んで本時は終了です。
2日目の宿題は、資源エネルギー庁の2種類の資料を配付し、目を通してくることでした。資料の内容は、それぞれ、日本のエネルギー需給に関するもの、各種発電方式を対比するものです。
3日目は、前時の最後に各班から選ばれた5つの解答の相互評価から始まります。まず、5人の解答者が登壇し、自分の答を読み上げたうえで、どのような点に気を付けて解答をまとめたか、執筆意図の説明を行います。挙手による投票の結果、森君(H組)の解答が最高点を獲得しました。生徒からの意見では、最初に結論を述べ、限られた字数のなか、項目を絞って両社説の異同が明瞭にまとめられている点が評価されました。
いよいよ、本丸である設問B、各自の見解を述べる問題です。まず、ワークシートの所定の欄に、構想をメモします。例えるならば、箱や袋の中に、取りあえず使えるかも知れない雑多な素材を、どんどん放り込むような段階で、とにかく思いつくことをランダムに書き付けます。次に、ロジックツリーを活用して、それらの素材を構造化していきます。素材をジャンル分けして小見出しを付け、ジャンル同士の先後関係を考えます。小論文のテーマはすでに設問として与えられているので、どのような配列をすることがテーマを論じるに当たって有効であるのか、を考えることになります。ここまで下準備をしたのち、設問Bの解答作成に取りかかります。及川教諭が小論文構成の基本事項を説明したのち、各自執筆に挑みました。その後、受講者全員が順番に登壇し、解答を読み上げます。聞き手に回るときは、評価表に従い、自分以外の発表者を評価します。評価の観点は、「着想」「構成」「論拠」の3つです。それを点数化し集計します。その結果、1位に輝いたのは国分君(A組)でした。3つの観点とも申し分なく、特に、自らの福島に関する体験を織り交ぜた論述は非常に説得力に富んでいました。
最終日の宿題として、2015年度ノーベル文学賞受賞者スベトラーナ・アレクシエービッチの『チェルノブイリの祈り』の抜粋を配布し、それぞれ読んでおくように指示をしました。
後日、受講者の声を聞いてみたところ、「自分以外の生徒の考えを知ることができて良かった」という意見がありました。これは、「選択国語表現」でも受講者が述べてくれる感想です。「小論文」と聞くと「表現」、すなわち書くことへと連想が及びますが、小論文の核心は「思考」です。積極的に自分の同輩の考えを知る機会を作ることで、各人の思考を促していこうというのが本校の小論文指導の理念です。今回の「慶応小論文」受講者に主体的な思考の芽が生まれ、3年次の「選択国語表現」などへとつながっていくことを期待したいと思います。