文武両道の秋
毎朝正門に立っていますが、時々生徒会の生徒達が通学路に立って通行の整理をすることがあります。彼らは強制ではなく、自主的にやっているのだそうです。なるほどそれでいつも人数やメンバーが違うのですね。10月は多くの生徒が協力してくれました。
成城には今も昔も、多彩な個性、多才な能力の人がたくさんいて自由に多様にふるまっている、そんな思いがした10月。それらの様子を書いてみます。
1.本の帯・・・校長賞は誰に?
文化祭で中学1年生全員が「本の帯」を出品しました。自分が読んだ本にどのような帯を付けたら目を引くか、自分で考えてデザインし、思いを伝えるという新しい取り組みでした。
大変興味深かったので、文化祭終了後に全員分を校長室に持ち込んで一つひとつ読んでみました。そして自分なりに評価の観点を設定して、全員分を採点。同点だった数名の中から迷いに迷って一つの作品を「校長賞」に選びました。全員の作品には公平性から名前が伏せてありましたのでその時は誰に出したのかはわかりませんでした。
2.中学運動会
天気予報に従って開催を一日延期した中学運動会。朝早くから多くの保護者、ご家族の皆様が開演を待って入場され、グラウンドはあっという間に一杯になりました。肌寒い日でしたが生徒達の演技と応援で熱くなりました。
演技のスケールでは何といっても「3年のマスゲーム」。流石3年生、と言われるほどの大成功で、観客の心に残る演技でした。
「マスゲームの入場前に田中先生から僕たちは熱い言葉をいただいた。そこには熱い魂が込められていたのだと思う。僕はその時、何か来るものを感じた。たくさんの人の魂に火が付いた気がした。」(生徒の作文より) 大変な練習を重ね指導してくださった田中功先生の思いが生徒達に届いた様子は演技を見ていて伝わってきました。
観客の誰もが感激したと思います。田中先生の奥様、お嬢様は目に涙してご覧になっていました。3年生、素晴らしい演技をありがとう。
3.幼稚園運動会
成城学校の伝統を受け継ぐ牛込成城幼稚園も運動会がありました。牛込成城幼稚園には日々体育の授業があり本校体育科の中田教諭が指導しています。当日は年長の「すみれ組」が体操「みんながヒーロー」を披露し、大成功を収めました。日本体育会発祥の地である「成城らしさ」あふれる演技に感激しました。
4.家庭科調理実習
大きな餃子の皮に、肉がびっしりと詰まって皮からはみ出している、という豪快な餃子。高2の生徒の調理実習に招待を受けご馳走になりました。
抜群の味つけで、味を見に来た学年主任の巳波先生も「千絵ちゃんの味だね」と絶賛していました。長年家庭科を教えて下さっている山田先生のことです。成城の光景はアットホームです。
5.日本学生科学賞への挑戦
日本で最も伝統と権威のある科学賞で知られる「日本学生科学賞」に高校2年の手島君が応募しました。今回東京都の大会で「奨励賞」を受賞した手島君が研究作品を校長室に届けてくれました。以前もこのブログで紹介したことがありますが、手島君は3年間にわたって「マイクロカプセル」の研究を継続しています。惜しくも中央審査会に進出することはできませんでしたが、手島君らしい着眼点による研究の蓄積が伝わってくる論文集です。「こだわり」をもって継続するすばらしさ。成城生の誇りとして讃えたいと思います。
6.身の回りの環境地図
環境地図教育研究会主催の「私たちの身の回りの環境地図作品展」は日本で唯一の全国規模・世界規模の地図作品展で、今年は開催26年目を迎えるそうです。本校では毎年中学校の部に応募しており、多くの学校が参加する中、今年は最高賞である「国土交通省国土地理院長賞」に成城中学3年の下川君の作品「What’s 見沼田んぼ? 見沼代用水とさいたまMAP」が選ばれました。中学3年生の生徒たちにとっては3年目の地図作成。中学生最後の作品として誇れる力作が生まれました。
また、これを含め5作品が優秀賞に選ばれました。レベルの高い作品を多数出展したということで成城中学校が「学校奨励賞」をいただきました。異動がないため継続して指導できる「私立学校ならではの結果」だと思います。まさに「継続は力」ですね。大変光栄な結果だと思います。
7.理事長就任のお祝いを兼ねた同期会
まなく就任1年目を迎えられる関口理事長は成城の卒業生です。たまたまその学年の同期会があり、理事長就任のお祝いを兼ねる会とのことで、私と事務局長を招待してくださいました。かつて南極越冬隊の医師として参加された関口理事長により「南極の氷」がプレゼントされました。何万年も前の空気が気泡として氷から溶け出す時の「ぴちぴち」という音を生まれて初めて聞きました。悠久の時を思う不思議な気持ちになりました。
その会に参加しておられたもう一人の卒業生を紹介します。重要無形文化財保持者(人間国宝)で十一世鶴賀流家元、鶴賀若狭掾(つるが わかさのじょう)さんです。2001年に人間国宝に認定されたそうです。
初代若狭掾生誕三百年記念の演奏会が11月20日にあります。卒業生である人間国宝による演奏会を私も楽しみにしています。鑑賞の感想を来月号でお伝えしいと思います。
8.アンソニー・トゥー博士を囲んで
ホームページで事前にご案内しました講演会「科学と平和~サリン事件を通してみる~」が、 アメリカのコロラド州立大学名誉教授のアンソニー・トゥー博士を本校にお招きして10月27日に実現しました。
アンソニー・トゥ博士は、毒性学の研究者です。特に日本と関係が深く、22年前の「サリン事件」の解決に貢献された科学者です。この功績が評価され日本で「旭日中授章」を受章されました。素晴らしいご経歴の持ち主で、かつて前任校(都立小石川中等教育学校)の時代から存知あげておりましたが、アンソニー・トゥ(杜祖健)先生の姉婿様が成城のご出身とのことで、この度、一つの中学高等学校としてはあり得ない講演会が実現したわけです。
アンソニー先生のお父様は、京都帝国大学医学部で台湾人初の医学博士号を取得された杜聡明(と そうめい)博士です。戦後は国立台湾大学医学部部長、台湾医学会会長などを歴任し、高雄医学院(高雄医学大学の前身)の創立者でもあり、台湾では「台湾医学の父」と呼ばれる有名な医学者です。
先生は流暢な日本語で、サリンという物質について、事件の背景、事件の解明、警察の失策などを語りながら事件を通して「科学と平和」について講演されました。さらには御自身の研究に触れられ「研究と学び」についてもご講演をされ、あっという間に時間が過ぎてしまいました。素晴らしい内容に生徒たちも集中し、次々と質問が飛び出しました。
会の終わりに、アンソニー先生のお父様が創設された高雄医学大学を出られたという本校の保護者から、アンソニー先生にプレゼントが贈られるなど、和やかに会を閉じることができました。「研究はアメリカで」「日本は危機管理を」「しばらくしたらまた来ますよ」等、思いを込めたお言葉の数々が印象に残ります。
帰りがけにアンソニー先生が突然「校歌を歌ってください。」と仰ったので、小講堂に掲げられている歌詞の前で歌いました。すると先生が一緒に歌いはじめ周囲を驚かせました。どんな思いで歌われたのでしょうか。
アンソニー先生を囲んでの講演後の懇談会には医学部関係の先生方が参加してくださいました。そのような中で小石川高校の卒業生との再会もあり、個人的にも充実した一日になりました。
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昨日は台湾教育センターを訪問。今年もあとふた月。学校では、様々来年度の準備が始まっています。自修館(自習室)ではチューターに質問する生徒の姿が目につきます。文武両道の秋を有意義に過ごしてほしいと願っています。
平成28年11月1日 栗原 卯田子