偶然出会った「戦争」と「平和」
今月は、たまたま出会うことができた本校に関わる「戦争」と「平和」の話から始めます。
1.児玉神社と女性の活躍
5月2日、藤沢市江ノ島にある児玉神社の例大祭に成城学校の校長として招待していただき出向きました。児玉神社は本校で第7代校長をされた児玉源太郎が「勝運の神様」として祀られている神社です。本校の歴史を認識し深く学びたいと思い参列させていただきましたが、台湾総督としてご活躍された関係からか台湾に関わる参列者も多数おられました。
児玉源太郎は、ペリー来航の前年から日露戦争終結の翌年までの55年間、まさに日本の近代化の時代を生きた、軍人、政治家、そして教育者です。司馬遼太郎の「坂の上の雲」で広く知られていますが、日露戦争の作戦指導のため内務大臣から参謀本部次長に自ら希望して降格し、乃木将軍を助け、日露戦争を勝利に導くという、高い才能を持ち目標に向かって果敢に挑戦した当時のリーダーです。日露戦争に出征したのは成城学校の校長になって間もなくの時で、後年、乃木大将が「我が二人の息子が成城学校に学んだお礼に」と贈られた寄付金をもとに購入されたのが、現在本校の学宝とされている「エンサイクロペディア・ブリタニカ」の初版本です。事務室玄関わきにありますが、見るたびに、成城学校のスケールの大きさ、乃木大将と児玉源太郎との関わり、我が子への親の思いなど、様々で複雑な気持ちになります。
もう一つ驚いたことは、児玉神社は宮司(ぐうじ)も祢宜(ねぎ)も女性で、今回の儀式すべてが女性によって執り行なわれたことです。厳粛な儀式の最後に宮司が挨拶され、日本の未来について教育の果たす役割への期待を力強く訴えておられたのが印象的でした。
2.無限の瞳と平和の像
児玉神社を訪ねてから一週間くらい過ぎた頃、今度は東京大学で学ぶ女子学生から私に手紙が届きました。彼女は1950年代の高校生の平和運動について研究していて、当時の本校生徒会の活動を知り、本校生徒会が1954年に製作した「無限の瞳」をみせてほしいとの内容でした。
「無限の瞳」とは、以前の校長室だよりで触れましたが、広島の原爆による「原爆症」になってしまった学友を救おうと生徒会が主体的に運動を始め、それを記録した自主製作の映画です。
多方面から歴史を考えるために、その学生が映像を受け取りに来た時に、「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」という本を紹介しようと思っていました。何と彼女は著者の研究室の学生でした。
彼女からは、「わだつみのこえ記念館」でみつけたという、当時のガリ版刷で発行された『無限の瞳(仮題)高校生自主映画製作ニュース』の1号と2号のコピーをもらいました。その中に「製作意図」が書かれていましたので引用します。
” 昨日も今日も僕たちは一人の学友を襲った恐ろしい悪魔と闘っている。
世界の平和を愛する無限の瞳は一人の高校生を、いや、幾万という人々を苦しめる目に見えない力を憎んでいる。
そして、この不幸な友に一すじの光を、と起こった僕たちの運動、これは世界に永遠の平和の訪れる日の一日も早からん事を祈る心の叫びなのだ。”
この映画は全国的に上映され、原水爆禁止世界大会への参加へと発展したそうです。千葉君の死に対し、原爆の恐ろしさを永遠に忘れぬようにと長野県に住む彫刻家により「平和の像」がつくられ、千葉君の一周忌である昭和31年5月に本校講堂で除幕式が行われたそうです。
3.まとめ
本校は、近代日本を支えるためのリーダー育成を目指して創立され、軍人養成学校として創立され、第2次世界大戦後はGHQの視察による存亡の危機がありました。戦後はそれを乗り越えようと平和教育を進め、130年の間には様々な歴史があります。しかし、時代思想こそ変われ、成城学校に変らぬものは、「知・仁・勇を備えた、高い人間力を持つリーダーとなれ」という、国のトップリーダーを目指した人間教育の理念、一貫したリーダー教育であると思っています。これからも時代の「三光星」を目指して頑張りましょう。
この5月27日にはアメリカのオバマ大統領が、広島を訪問し、被爆者の肩を抱き寄せたシーンが感動的でした。被爆者から厳しい言葉をかけられてもおかしくないシーン。だからこその感動がありました。
まさにこの5月は成城の歴史探訪の月でした。本校の戦争と平和の歴史に触れながら、「これから」を考える、という「校長室だより」にしては重たい内容になってしまいました。
ここから、いつもの成城生の様子を紹介します。
4.男子校のすき焼き丼
高校2年生が調理実習で作ってくれた「すきやき丼」をごちそうになりました。やっぱり男子はおなか一杯おいしいものを食べることが大事ですね!! きちんと作って、皆で楽しく食べ、手早く片付ける。今回は肉と野菜ときのこがたっぷり入った栄養満点の丼ぶりを生徒たちと一緒に食べて、私も元気をいただきました。
5.中学行事
中学生は5月考査(1学期中間試験)の日数が高校よりも一日少ないので、考査の翌日は中学行事をします。5月26日、今回の中学1年生は、朝、班ごとに学校を出発して箱根山、早稲田大学、神楽坂の毘沙門天などをチェックポイントとして、北の丸公園までを歩くコースです。正門で見送りましたが、早速門の前で地図を見ながら、立ち止まって、右に行こうか左に行こうかうろうろしている班もありました。何とか全員無事に終わりましたが、班で協力して自分たちの力で、辿りつくことはとても大事です。万が一災害にあって学校まで歩くことになったとしても今回の経験はきっと役に立つと思っています。
6.台湾事前学習
高校の考査最終日の5月26日、試験終了後に、台湾グローバル研修に参加するメンバーを対象に第1回事前研修が始まりました。今回は高校3年の社会科早野先生による「台湾の地理と歴史」についての勉強会で私も参加させてもらいました。配られたプリントに沿って講義があり、大変興味深い内容でした。知らないことが沢山あったことでしょう。研修に参加する生徒たちには、自分の興味・関心をテーマにして研修本番に臨んでほしいと思っています。
7.プール開き
同じく高校考査の最終日の午後に、プール開きを行いました。成城流のプール開きは、プールサイドに台を設え、お神酒をお供えし、お祓いの後、校長と水泳部の部長が共に安全を祈願しながらプールの四隅にお神酒を注ぎます。
その後、部長が全員の前で泳ぎ初めをします。続いて、全部員が泳ぎます。
5月のプール開きは温水プール設備があるからできること。文武両道主義の伝統校、施設の充実した私立学校こその行事風景です。授業、部活動などが安全に行われますよう祈願しました。
8.グローバル化の中で
5月30日、本校の卒業生が進学しているシドニー大学に今年も一人進学することから、かかわりのあった英語の先生がシドニーから本校を表敬訪問されました。日本の大学入試の英語の問題をお見せして感想を伺ったところ、「扱われている長文の内容がアカデミックで、かつ難しい」と、びっくりされていました。また、本校の生徒は「polite(礼儀正しい)」とのことでした。来月は前任校での繋がりから台湾医科大学の方がお見えになる予定です。
本校は、戦争と平和に関わりながら、知・仁・勇の人間教育を通して、リーダー教育を推進してきたと思っています。成城学校がこれらの伝統を土台としてグローバル時代にあるべき教育は何か模索しています。グローバル時代にどのように生きていくのか、成城らしいリーダーシップを追究して社会に貢献してほしいと願っています。
平成28年5月31日
学校法人成城学校
成城中学高等学校
校長 栗原卯田子